IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」概要解説(2回/全2回)_MPMと情報の集約

前回に引き続き、IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」(以下、IFRS18)について解説していきます。 

前回の再掲になりますが、IFRS18における主な改善事項の内容は以下のとおりです。「①損益計算書の構成」については前回取り上げましたので、今回は「②経営者が定義した業績指標(MPM)」及び「③情報の集約(集計と分解)」についての解説を行います。 

カテゴリ 現行基準に基づく開示の問題点 IFRS18における改善事項 
①損益計算書の構成 純損益以外の小計開示が要求されておらず、企業間比較が困難 損益計算書の区分を明確化するとともに、新たな小計を導入することで企業間比較の実効性を担保 
②経営者が定義した業績指標 (MPM) 企業独自の情報であることから、詳細が分からないことも多く、信頼性が不明確 MPMの信頼性向上のために一定の開示要求事項を追加 
③情報の集約化 (集計と分解) 必ずしも適切に集約または分解された情報が含まれていない 基本財務諸表及び注記の役割を明確化し、情報の集約及び分解の原則を定めるとともに、営業費用の表示について要求事項を見直し 

<IFRS18における改善事項 ②経営者が定義した業績指標(MPM) 

  • MPMとは何か 

MPM(=management-defined performance measures)とは、損益計算書に関連する代替または非 GAAP 指標 (つまり、IFRS会計基準で定義されていない指標) であり、以下の3要件を満たすものとされています。 

  • IFRS18に記載されているもの、またはIFRS会計基準で特に要求されているもの以外の収益と費用の小計である。 
  • 企業が財務諸表以外の公的コミュニケーションで使用するためのものである。 
  • 企業全体の財務業績の一側⾯についての経営陣の⾒解を投資家に伝えるためのものである。 
  • MPMの開示 

IFRS18において、MPMの定義を満たすすべての指標について、財務諸表の単一の注記で以下を開示することが求められています。 

  • 当該指標と、IFRS第18号に記載されている最も直接的に比較できる小計、またはIFRS会計基準により特に要求されている合計または小計との間の調整表(調整において開示される各項目の税効果および非支配持分への影響を含む) 
  • 当該指標がどのように経営者の見解を伝えているか、および当該指標がどのように計算されているかの説明 
  • 会社のMPMの計算方法、またはMPMの計算方法の変更の説明 
  • 当該指標が、会社全体の財務業績の一側面に関する経営者の見解を反映したものであり、他社が提供する同様の表示や説明を共有する指標と必ずしも比較できるものではない旨の記述 

<IFRS18における改善事項 ③情報の集約(集計と分解) 

  • 情報の集約及び分解の原則 

IFRS18では、企業に対し、取引やその他の事象を主要財務諸表項目と注記情報にグループ化するためのガイダンスを提供しています。ガイダンスによれば、一般的には企業に以下のことが求められています。 

  • 特性を共有する項目を集約し、特性の異なる項目は細分化する。 
  • 重要な情報を不明瞭にしたり、情報の理解度を低下させたりしない⽅法で項⽬をグループ化する。 
  • 主要財務諸表と注記に項⽬を配置し、それらの補完的な役割を果たす。 
  • 「その他」の表示を用いる場合の検討事項・追加的な情報開示について規定する。 
  • 営業費用の表示 

IFRS18では、企業は営業区分の費用を、財務諸表利用者にとって最も有用な構造化された要約を提供する方法で表示することを求めています。この方法には、①費用の性質別に分類する方法、②費用の機能別に分類する方法、または③性質・機能の両特性を使用する方法が含まれます。 

なお、前回記事における、「損益計算書の表示例」は③性質・機能の両特性を使用する方法によって表示した例です。 

(前回記事より一部抜粋) 

区分 表示科目 
営業 収益 
売上原価 
売上総利益 
その他の営業収益 
販売費 
研究開発費 
一般管理費 
のれんの減損損失 
その他の営業費用 
営業利益 

「売上原価」は②費用の機能別に分類する方法による表示科目ですが、「のれんの減損損失」は①費用の性質別に分類する方法による表示科目であり、両者を取り入れた③性質・機能の両特性を使用する方法による表示となっています。 

また、IFRS18では、②費用の機能別に分類する方法により表示した企業に対して、損益計算書の営業区分の各項目に含まれる性質別費用5項目(減価償却費、償却費、従業員給付、減損損失及び棚卸資産評価減)の金額を開示することを求めています。 

<(参考)IFRS18におけるその他の改訂事項> 

  • IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」における改訂 
  • 間接法による営業活動によるキャッシュ・フローを報告する際の調整の出発点として、「純損益」ではなく新たな小計である「営業損益」を使用する。 
  • 利息と配当のキャッシュ・フローの表示⽅法の選択肢を削除し、一般的な企業において、配当金と利息の支払額は財務活動によるキャッシュ・フローに分類され、配当金と利息の受取額は投資活動によるキャッシュ・フローに分類されることを規定しました。 
  • IAS第33号「1株あたり利益」 

企業は、基本および希薄化後1株当たり利益の報告に加えて、分⼦が IFRS18で特定された合計または小計、あるいは MPMである場合にのみ、包括利益計算書の任意の構成要素に基づいて計算された1株当たり利益を開示することが許可されました。 

  • IAS第34号「期中財務報告」 

中間財務諸表で MPMに関する情報を開示することが求められるよう修正されました。その他の変更の一部 (小計に関する変更を含む) は、中間財務諸表にも適用されます。 

<まとめ> 

今回の記事では、IFRS18における改善事項のうち②経営者が定義した業績指標(MPM)および③情報の集約(集計と分解)について解説させていただきました。 

IFRS18の適用により、会社によっては損益計算書の表示が従来と大きく異なる見え方となることが想定されるため、適用に向けた影響度調査を含めて、十分かつ適切な事前準備を行うことが必要です。 

事前準備に関してお困りごとがございましたら、ぜひアドス共同会計事務所までご相談ください。 

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