連結外しによる不正事例解説 第1回
はじめに 「不正会計」をテーマとする目的
アドス共同会計事務所においては、経理に関わる皆様の会計知識アップデートに少しでも寄与することを目的に「改正リース基準」を始めとした、企業会計基準の解説を中心に記事を執筆して参りましたが、今後「不正会計」もテーマとして扱うこととしました。
経理や内部監査等に携わり、企業活動のモニタリング機能の一翼を担う皆様が、実際に起きている不正会計の事例に関する知見を身に着けることは、企業のガバナンス向上に有意義である反面、企業の不正事例は、第3者委員会調査報告書等の膨大な量の資料を読む必要があることから情報のキャッチアップが困難な面があります。そこで、経理や内部監査等に携わる皆様に少しでも効率的にその知見を有していただくことに寄与するために、アドス共同会計事務所の記事において、過去に行われた古い事例も含め、事例の内容やポイント等をお伝えさせていただければと考え、「不正会計」のテーマも扱うことと致しました。
皆様の知見向上に寄与できるよう細く長く継続していければと思っておりますので、お付き合い頂けますと幸いです。
ENECHANGEによる連結外しスキームの不正
2024年に行われた不正会計の事案として最も大きく話題になったものの1つと言えるものは、電気自動車への充電事業などを手掛けるENECHANGE株式会社(以下、ENECHANGE)において起きた会計不正です。
ENECHANGEにおける会計不正事案が話題となった要因の1つは、今回の会計不正事案が特別目的会社(SPC)を用いたスキームの特殊性が挙げられます。
今回のスキームで用いられた、SPCの出資者は表面上では少なくともENECHANGEと資本関係等の無い第3者でしたが、特殊性としてSPCの出資者に対してプットオプション(買取り請求権)を設定し、一定の業績条件等が満たされた場合、出資者はENECHANGEへ買取り請求を行うことが可能でした。
そのため、設定された業績条件等にならないことに関して、合理的な説明ができることを前提に、連結外部のSPCとして認められていた状況であったところ、そもそも表面上の第3者と思われた出資者たちに対して、ENECHANGEの当時のCEOが出資原資を資金提供していたことが判明し、プットオプションの条件に関係なく、ENECHANGEがSPCに対して実質的な支配力を有していると判断され、本来、連結範囲に含めるべき対象であると判断されました。
その結果SPCに対してENECHANGE及びその子会社が販売したEV充電器の販売がグループ内取引とみなされ、2023年12月期の有価証券報告書について売上高が23億円減少することとなりました。

過去の連結外しによるスキーム事例
ENECHANGEのように連結範囲を利用した不正会計のスキームは今に始まったことではなく、過去から繰り返し行われています。連結範囲を操作する意図は様々ですが、多くの事例は大きく2つのケースに大別されます。1つめは「収益の過大計上を目的としたケース」で、具体的には、ENECHANGEのように、子会社を連結外とした上で、当該子会社へ販売取引を行い、売上高を過大に計上するケース、2つめは「費用・損失の過少計上を目的としたケース」で、具体的には、費用や損失を連結外の子会社に飛ばすことで、連結上の費用を過少に計上するケースが挙げられます。
また、スキームの手口も様々で、ENECHANGEのようにファンドやSPCを用いて複雑なスキームを構築し、そもそも子会社として識別されないような複雑な手法もあれば、「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会報告第52号)」に規定されている重要性の判定基準を不適切に用いることで、連結処理を行う必要のない重要でない子会社として非連結子会社として取扱う相対的に単純な手法もあります。
そのため、「連結外し」と一言で表現しても、「目的」×「手口」でその事例は様々ありますが、「目的」を「収益の過大計上」と「費用・損失の過少計上」の2つに、「手口」を複雑さの「高」と「低」の2分類に分類し、過去に公表されている主要な事例は以下のように分類されます。
【連結外しによる不正スキームの4分類】

本記事において「不正会計」をテーマに、今後、連結外しの主要事例として上記の4分類それぞれに関する実際の事例の内容を紹介させていただきます。
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