連結外しによる不正事例解説 第2回_複雑でない手口での収益の過大計上
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はじめに
前回記事「連結外しによる不正事例解説 第1回」では、連結外しの不正事例として「目的」×「手口」で4つに分類しました。
今回は、「目的:収益の過大計上」×「手口の複雑さ:低」(下記③)の代表例である教育事業を営むE社(前回記事とは別会社)の連結外しによる不正事例について解説を行います(E社は連結外しによる費用の過小計上も行っていますが、連結外しによる収益の過大計上に絞り解説します。)。

教育事業を営むE社は2018年9月期~2019年9月期にかけて、連結外しその他の手口を使用し、売上高の過大計上などの不適正な会計処理を行いました。
第三者委員会報告書によると連結外しによる連結財務諸表への影響額は2019年9月期において売上高197百万円(連結売上高に占める割合の約3%)、当期純利益281百万円(連結当期純利益に占める割合の約35%)の過大計上となっていました。
E社は複数の会社の連結外しを行っていましたが、下記「不正事例の概要」では、子会社D社の連結外しについて詳細を解説します。
不正事例の概要
関連する商流の概要
2018年4月にグループ戦略上重要な位置づけであるAI事業を営む子会社(以下:D社)を設立しました。
事業のスキームは以下のとおりです。
① E社グループが保有するAI-OCRのライセンスをD社に提供。D社は当該ライセンスと自社のライセンスを組み合わせてAIサービスを開発。
② D社が開発したAIサービスをE社本社が販売代理店として外部顧客に販売。

D社を連結範囲外としているため、上記の取引の結果、E社グループからD社に対するライセンス売上120百万円及び、E社から外部顧客に対する売上89百万円が計上されます。上記のような商流が、直ちに不正と判断されるわけではありませんが、一つの商流で売上が二重で計上されることから特殊な商流ということができます。
不正に至るまでの経緯
- D社の設立時点での連結の判断
E社は2018年4月にD社を設立しました。その際、E社は、基準に定められる4指標(資産基準、売上高基準、利益基準、利益剰余金基準)について連結財務諸表に対する影響が±5%未満であることを確認し、連結財務諸表に与える影響が連結範囲から除外しました。 - D社に対するライセンス料の支払停止契約の締結
D社は2019年3月の第2四半期に、D社が上記4指標のうち利益(損失)基準において重要性を上回る見込となりました。そのため、D社が連結基準を満たさないようD社の損失額を調整するためにE社連結グループ会社よりD社が支払うライセンス料支払停止契約(2019年4月~6月)を締結しました。 - 監査法人へ提出する連結範囲判定資料の調整
2019年6月の第3四半期時点で、定量的な基準を満たしたことが確認されましたが、期末までの取引を見込で計上し、連結基準を下回るとする資料を監査法人に提出しました。 - 期末の監査法人への報告未実施
2019年9月期の期末においても、定量的基準を超過していると確認されましたが、監査法人への報告は行われず、連結範囲から除外され続けました。
直接的な動機については第三者報告書で明言されていませんが、当初D社の設立時点からD社を連結範囲外とする前提で連結業績予想が策定されており、公表済の連結業績予想を達成するために、上記不正を実行したと考えられます。
事例に対する考察
不正の意図があったのはどの段階からか
不正とは「監査基準委員会報告書240 財務諸表監査における不正」による定義を引用すると"不正又は違法な利益を得るための他者を欺く行為を伴う、経営者、取締役、監査役等、従業員又は第三者による意図的な行為"とされています、結果的に誤った処理で利益を計上した場合ではなく、故意性が要件として必要です。あくまで私見ではありますが、設立当初は単に従来から適用していたルールに機械的に当てはめたのみで、特段不正の意図はなかったと考えます。一方で、連結業績予想を達成するプレッシャーから、2019年9月においては、従来ルールにおいても連結範囲に含めるべき状況であったにもかかわらず、連結範囲から除外し、監査法人への報告も行っていないため、少なくとも2019年9月末時点においては不正の意図をもって連結外しを行ったと考えます。
採用した重要性基準の是非
E社は、子会社を連結するかどうかを判断する基準として、資産、売上高、利益、または利益剰余金のいずれかの指標において、非連結子会社の財務数値が連結財務諸表の対応する財務数値の5%を超える場合に連結すべきであるという基準を採用していました。
この基準自体は、監査基準「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い(監査・保証実務委員会報告第52号)」に平成14年改正まで目安として3-5%として記載されており、目安の上限の5%であるものの、特段不合理な基準ではありません。

質的重要性に関する考慮の欠如
なお、上記監査基準には以下の記載があり、重要性基準のみで判断してはならない旨が明記されています。
今回の事案では、設立当初にここまで踏み込んだ判断を行うことは実務上困難とは思われますが、下記の基準を厳格に適用すると設立時より金額的な重要性にかかわらず、連結する判断をとるべきであったと第三者委員会報告書では指摘されています。
機械的に順次選定するのではなく、個々の子会社の特性や上記算式で計量できない要件も考慮するものとする。
例えば、以下のような子会社は原則として非連結子会社とすることはできない。
① 連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な子会社」(以下略)
おわりに
今回は連結範囲の重要性基準を超えても連結対象外とする判断を継続し連結外しを行った事例について紹介しました。
今後もアドス共同会計事務所では連結外しに関する不正事例に関する解説記事を執筆予定です。本記事に関する疑問点等がございましたらお問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。