年収の壁問題についての解説
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はじめに
今回は、来年度の税制改正に向けて与野党の協議の目玉となっている「年収の壁」問題について、主要な年収の壁を取り上げて簡単に解説しようと思います。
年収の壁問題とは、日本の税制や社会保険制度において、特定の年収を超えることで税負担や保険料負担が増加し、かえって可処分所得が減少したり、働く意欲を削がれたりする問題を指します。この問題は特に、パートタイム労働者や主婦が直面することが多いです。
日本における主要な年収の壁
現時点における日本の主要な年収の壁は以下のとおりです。
なお、学生、ひとり親・寡婦・60歳以上の方々など、別途適用される年収の壁も存在しますので、下記表は網羅性を担保するものではないことをご理解・ご容赦頂ければ幸いです。
壁概要 | 壁となる収入金額 (Aが対象) | 壁となる所得金額 (B・Cが対象) | A.給与収入のみ (パート・アルバイト) | B.給与所得+給与所得以外 (パート・アルバイト+副業) | C.給与所得以外のみ (個人事業主) |
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副業確定申告の壁 | ー | 200,000 | ー | 副業所得が20万円超の場合、確定申告が必要。 ※住民税の申告は、金額如何に関わらず各区市町村へ申告 | ー |
住民税の壁 | 1,000,000 | 450,000 | 収入が100万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) | 所得合計が45万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=45万円以下であれば、非課税となる。 | 所得合計が45万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) |
所得税の壁・扶養の壁 | 1,030,000 | 480,000 | 給与収入103万円超で、所得税上の扶養が外れ所得税が課税される。また、扶養する側が配偶者控除を受けることができなくなる。 ※「給与収入103万円ー給与所得控除55万円=給与所得48万円」ー「基礎控除48万円」=「所得ゼロ」となり、所得税が課されない。 また、配偶者控除適用の「給与所得48万円以下」の条件になる。 | 所得48万円超で所得税上の扶養ではなくなり、所得税が課税される。 (所得合計が48万円以下で扶養される側となり、扶養する側の所得税・住民税計算時に、「配偶者控除」が適用可能。) ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=48万円以内である必要あり。 副業所得が20万円超の場合、確定申告が必要。 | 所得48万円超で、所得税上の扶養ではなくなる。また、所得48万円超の場合は確定申告をする必要あり。 所得合計が48万円以下で、扶養される側となり、扶養する側の所得税・住民税計算時に、「配偶者控除」が適用可能。 この壁の所得の考え方:「所得」=「収入」ー「経費」ー「青色申告特別控除」。 ※1:青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定(ただし青色申告特別控除には確定申告が必要)。 ※2:社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定。 |
社会保険条件付加入義務の壁 ※給与収入のみで判断される。 | 1,060,000 | ー | 以下条件の会社に所属している場合、給与収入が106万円未満で扶養される側となる。 (106万円以上で扶養から外れ、社会保険加入義務が発生) <条件> ・勤務先企業の従業員数が51人以上 (2024年9月までは101名以上) ・週の労働時間が20時間以上 ・賃金が8.8万円(年収106万円)以上 (基本給と一部手当の合計額であり、残業代・賞与・通勤手当・臨時賃金等は含まない) ・2ヶ月を超える雇用の見込みがある ・学生ではない | 同左の条件で、副業所得は考慮されずに給与収入だけで判断される。 106万円未満であれば扶養される側となる。 (106万円以上で扶養から外れ、社会保険加入義務が発生) | ー |
社会保険必加入義務の壁 ※給与のみの方は給与「収入」で判断され、 フリーランス・個人事業主は「所得」で判断される。 | 1,300,000 | 1,300,000 | 106万円の壁の条件を満たしていなくても、給与収入が130万円以上となると扶養から外れ、社会保険加入義務が発生。 なお、106万円の壁と異なり給与収入には残業代、賞与、通勤手当が含まれることに注意。 | 所得合計が130万円未満で扶養される側となり、130万円以上で扶養から外れる。 ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=130万円未満である必要がある。 | 所得合計が130万円未満で扶養される側となり、130万円以上で扶養から外れ国民年金や国民健康保険への加入義務が生じる。 この壁の所得の考え方:「所得」=「収入」ー「経費」。 ※1:103万円の壁と異なり、青色申告者の場合でも青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定。 ※2:減価償却費は判定において経費に含まれない。 ※3:社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定。 |
配偶者特別控除減少の壁 ※青色専従者給与や事業専従者控除によって 所得を得ている場合には、配偶者特別控除は使用できない。 | 1,500,000 | 950,000 | 給与収入が150万円を超えると、収入が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 | 所得金額が95万円を超えると、所得が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 | 所得金額が95万円を超えると、所得が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 |
配偶者特別控除消滅の壁 ※青色専従者給与や事業専従者控除によって 所得を得ている場合には、配偶者特別控除は使用できない。 | 2,010,000 | 1,330,000 | 給与収入が201万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 | 所得が133万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 | 所得が133万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 |
上記表を見るとわかるように、特にパート・アルバイトにおける給与収入103万円(所得税の壁・扶養の壁)という壁がパート・アルバイトの勤労意欲を阻害しているのではないか、として与野党にて変更を検討している状況です。
ここでいう103万円の壁というのは、48万円分の基礎控除と55万円の給与所得控除の合計額となっています。基礎控除は生活維持のために必要な最低限の収入には課税しないという趣旨、給与所得控除は給与所得者の経費相当額という趣旨を持つと理解していますが、このトータルの103万円の壁は、1995年からその金額が変わっていないのが現状です。
昨今の物価上昇を鑑みればこの壁を引き上げることは一定の合理性があるように思いますが、その分の税収源をどうするのか、(現時点では178万円という案が有力のようですが)どこまで引き上げることが妥当なのか、他の年収の壁との整合性をどう整理するかなど、検討課題が多く残されています。
まとめ
今回は「年収の壁」問題について簡単な解説をさせて頂きました。
当記事を書いている私も含め、税制改正に向けた今後の与野党の協議状況を注視していくことが必要となりますが、税金の話なのか、税務上の扶養の話なのか、社会保険上の扶養の話なのか、ニュースを聞いただけだとパッと分からないことも多いと思いますので、当記事が皆様の理解に資するものとなれば嬉しいです。
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