令和7年税制改正による年収の壁の変更
25年3月31日に令和7年度税制改正関連法が成立し、昨年12月11日に取り上げた「年収の壁問題についての解説」についても変更点がございますので、本記事において簡単に解説させていただきます。
主な変更点
所得税の壁について、従来の「給与収入103万円・所得48万円」から「給与収入160万円・所得95万円」に大きく引き上げられました。これは、年収が200万円以下であれば基礎控除が従来の48万円から95万円に引き上げられ、給与所得控除についても従来の55万円から65万円に引き上げられたことが要因です。これに伴い、税法上の扶養の壁、住民税の壁、配偶者特別控除減少の壁なども引き上げられることとなりました。
日本における主要な年収の壁(令和7年度税制改正反映版)
昨年記事で取り上げさせて頂いた主要な壁については、以下のとおり変更されています(変更箇所を赤字で記載)。
なお昨年記事同様、学生、ひとり親・寡婦・60歳以上の方々など、別途適用される年収の壁も存在しますので、下記表は網羅性を担保するものではないことをご理解・ご容赦頂ければ幸いです。
壁概要 | 壁となる収入金額 (Aが対象) | 壁となる所得金額 (B・Cが対象) | A.給与収入のみ (パート・アルバイト) | B.給与所得+給与所得以外 (パート・アルバイト+副業) | C.給与所得以外のみ (個人事業主) |
副業確定申告の壁 | ー | 200,000 | ー | 副業所得が20万円超の場合、確定申告が必要。 ※住民税の申告は、金額如何に関わらず各区市町村へ申告 | ー |
社会保険条件付加入義務の壁 ※給与収入のみで判断される。 | 1,060,000 | ー | 以下条件の会社に所属している場合、給与収入が106万円未満で扶養される側となる。 (106万円以上で扶養から外れ、社会保険加入義務が発生) <条件> ・勤務先企業の従業員数が51人以上 (2024年9月までは101名以上) ・週の労働時間が20時間以上 ・賃金が8.8万円(年収106万円)以上 (基本給と一部手当の合計額であり、残業代・賞与・通勤手当・臨時賃金等は含まない) ・2ヶ月を超える雇用の見込みがある ・学生ではない | 同左の条件で、副業所得は考慮されずに給与収入だけで判断される。 106万円未満であれば扶養される側となる。 (106万円以上で扶養から外れ、社会保険加入義務が発生) | ー |
住民税の壁 | 1,100,000 (変更前1,000,000) | 450,000 | 収入が110万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) | 所得合計が45万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=45万円以下であれば、非課税となる。 | 所得合計が45万円超で住民税(所得割)が課税。 (均等割は地域によって基準が異なる。) |
社会保険上の扶養の壁 ※給与のみの方は給与「収入」で判断され、フリーランス・個人事業主は「所得」で判断される。 | 1,300,000 | 1,300,000 | 106万円の壁の条件を満たしていなくても、給与収入が130万円以上となると扶養から外れ、社会保険加入義務が発生。 なお、106万円の壁と異なり給与収入には残業代、賞与、通勤手当が含まれることに注意。 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件を満たしていれば勤務先で社会保険に加入することになり、そうでなければ、国民健康保険・国民年金に加入することになる。 | 所得合計が130万円未満で扶養される側となり、130万円以上で扶養から外れる。 ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=130万円未満である必要がある。 社会保険(健康保険・厚生年金)の加入条件を満たしていれば勤務先で社会保険に加入することになり、そうでなければ、国民健康保険・国民年金に加入することになる。 | 所得合計が130万円未満で扶養される側となり、130万円以上で扶養から外れ国民年金や国民健康保険への加入義務が生じる。 上記所得の考え方:「所得」=「収入」ー「経費」。 ※1:160万円の配偶者特別控除減少の壁と異なり、青色申告者の場合でも青色申告特別控除額を差し引く前の所得で判定。 ※2:減価償却費は判定において経費に含まれない。 ※3:社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定。 |
税法上の扶養の壁 | 1,230,000 (変更前1,030,000) | 580,000 (変更前480,000) | 給与収入123万円超で、税法上の扶養から外れ扶養する側が扶養控除を受けることができなくなる。 | 所得58万円超で、税法上の扶養から外れ扶養する側が扶養控除を受けることができなくなる。 | 所得58万円超で、税法上の扶養から外れ扶養する側が扶養控除を受けることができなくなる。 |
所得税の壁 ※ | 1,600,000 (変更前1,030,000) | 950,000 (変更前480,000) | 給与収入160万円超で所得税が課税される。 ※「給与収入160万円ー給与所得控除65万円=給与所得95万円」ー「基礎控除95万円」=「所得ゼロ」となり、所得税が課されない。 | 所得95万円超で所得税が課税される。 ※「給与収入-給与所得控除=給与所得」+「副業所得」=95万円以内である必要あり。 副業所得が20万円超の場合、確定申告が必要。 | 所得95万円超の場合は確定申告をする必要あり。 |
配偶者特別控除減少の壁 ※青色専従者給与や事業専従者控除によって所得を得ている場合には、配偶者特別控除は使用できない。 | 1,600,000 (変更前1,500,000) | 950,000 | 給与収入が160万円を超えると、収入が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 | 所得金額が95万円を超えると、所得が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 | 所得金額が95万円を超えると、所得が増えるにつれて配偶者特別控除の額が徐々に減少。 上記所得の考え方:「所得」=「収入」ー「経費」ー「青色申告特別控除」。 ※1:青色申告者の場合は、青色申告特別控除額を差し引いた後の所得で判定(ただし青色申告特別控除には確定申告が必要)。 ※2:社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引く前の金額で判定。 |
配偶者特別控除消滅の壁 ※青色専従者給与や事業専従者控除によって所得を得ている場合には、配偶者特別控除は使用できない。 | 2,010,000 | 1,330,000 | 給与収入が201万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 | 所得が133万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 | 所得が133万円を超えると配偶者特別控除額はゼロとなる。 |
合計所得金額 (収入が給与だけの場合の収入金額) | 基礎控除 | ||
改正前 | 改正後 (2025年~2026年) | 改正後 (2027年以降) | |
132万円以下 (200万3,999円以下) | 48万円 | 95万円 | 95万円 |
336万円以下 (475万1,999円以下) | 88万円 | 58万円 | |
489万円以下 (665万5,556円以下) | 68万円 | ||
655万円以下 (850万以下) | 63万円 | ||
2,350万円以下 (2,545万円以下) | 58万円 |
まとめ
今回は税制改正による「年収の壁」の主要な変更点について簡単な解説をさせていただきました。
なお、社会保険条件付加入義務の壁(給与収入106万円)については、今回の税制改正による変更はございませんが、2026年10月を目途に撤廃することが見込まれていますので、今後の動向に注意が必要です。
アドス税理士法人は、個人事業主の会計税務について開業時の対応から税務申告まで一気通貫して対応しておりますので、ご不明点があればぜひご相談ください。