改正リース基準概要解説(1回/全5回)_基準改正の概要

はじめに

2023年5月に「リースに関する会計基準(案)」及び「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、「改正リース会計基準案等」といいます。)が公開草案として公表されましたリースに関する会計基準|企業会計基準委員会 (asb-j.jp)

IFRSへのコンバージョンの観点から公表された「改正リース会計基準案等」は、企業のリース取引に関する会計処理に大きな変更をもたらすことが予想されます。この重要な変更は、企業の貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書だけでなく、経営管理指標にも顕著な影響を及ぼすと考えられています。

第1回の記事では、改正案の公表経緯、主要内容、そして財務諸表及び経営に対する具体的な影響について解説し、改正リース会計基準案等の適用までのスケジュールと企業が準備すべき事項についての簡易的なガイダンスを提供します。

アドス共同会計事務所では、全5回のシリーズでリースの詳細解説を提供予定です。企業会計の変更に備え、最新の情報と対策を理解するための重要なリソースとしてご活用ください。

公表の経緯

改正リース会計基準案等の公表は、一言でいうと国際財務報告基準(IFRS)とのコンバージョンを目的に行われました。

日本における現行会計基準である企業会計基準第13 号「リース取引に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第16 号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、「リース現行基準」といいます。) において、借手の会計処理に関して、オペレーティング・リースに分類されたリースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理が適用されることから、貸借対照表においてリース資産とリース負債が計上されることはありません。

これに対して、IFRS第16 号「リース」(以下「IFRS 第16 号」といいます。)及び米国財務会計基準のTopic 842「リース」(以下「Topic 842」といいます。)では借手の会計処理に関して、オペレーティング・リースも含むすべてのリースについて、「使用権モデル」に従い、貸借対照表において使用権資産とリース負債を計上する必要があります。

上記のとおり、日本における現行会計基準とIFRS 第16 号及びTopic 842には、資産・負債の認識において差異があり、当該差異を是正することが必要とされていました。

基準概要

改正リース会計基準案等においては、IFRS第16号の主要な定めを採り入れることが提案されています。

最も重要と考えられる内容として、リースの借手における、従来オペレーティング・リースとして費用処理していたリースのオンバランス化が挙げられます。

このため、特に以下の2点を慎重に検討する必要があります。

①オンバランスすべきリースを特定すること(実質リースの判定)

②リース期間を適切に見積もること(解約オプション・延長オプションの検討)

また、改正リース会計基準案等は連結財務諸表のみではなく、個別財務諸表への適用が想定されます。

したがって、既に連結財務諸表において「IFRS 第16 号」を適用していた企業についても、改正リース会計基準案等の適用により、新たに個別財務諸表上から、オペレーティング・リースのオンバランス化及びそれに伴う減価償却等の対応が必要です。

なお、リースの貸手における会計処理についても、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と整合させる改正(例えば、現行基準におけるリース料受取時に売上⾼と売上原価を計上する⽅法による会計処理(いわゆる第2法)の廃止など)が想定されていますが、借手と比較して影響のある会社は限定的と考えられます。

改正リース会計基準案等の詳細な内容については、次回以降のブログで深堀していきますので、お待ちくださいませ。

適用による財務諸表・経営管理指標への影響

賃借契約を多く利用している企業は財務影響(資産・負債の増加)が大きく、対外的な説明が必要となると考えられます。

①貸借対照表

すべてのリースに対して使⽤権資産とリース負債を認識することになるため、「改正リース会計基準案等」適用後は資産、負債の⾦額が増加し、また⼀般的にリース負債は使⽤権資産より大きくなることから、純資産が減少することになります。

②損益計算書

新たにオンバランスした使⽤権資産の減価償却費、リース負債に対する⽀払利息が発⽣する⼀⽅で、従来のオペレーティング・リースに係る賃借料は発生しないことになります。

③キャッシュ・フロー計算書

従来のオペレーティング・リースに係る賃借料が発生しないことから、営業費⽤が減少することで営業キャッシュ・フローは増加しますが、リース負債の返済が増加することで財務キャッシュ・フローは減少することになります。

④経営管理指標

<良化すると考えられる指標>

・EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)

従来のオペレーティング・リースに係る賃借料が発生しなくなることから、EBITDAは増加することになります。なお減価償却費と支払利息が発生することになりますが、EBITDAには影響しません。

<悪化すると考えられる指標>

・総資産利益率(ROA)

従来のオペレーティング・リースがオンバランスされることで総資産が増加するため、総資産利益率(ROA)は低下することになります。

・負債比率、負債資本倍率(D/Eレシオ)

従来のオペレーティング・リースがオンバランスされることでリース負債が増加するため、負債比率や負債資本倍率(D/Eレシオ)は上昇することになります。

基準案等の適用までのスケジュール(見込)

改正リース会計基準案等は現時点で公開草案であり、通常であればコメント募集・審議を経て1年前後で最終化されますが、時間を要している状況です。

また、公開草案では、基準最終化から強制適用までの期間を2事業年度程度とすることが提案されています。

したがって、2024年9月以降に基準が最終化された場合は、3月決算会社の強制適用年度は2028年3月期の可能性が高いと考えられています。

まとめ

今後1年以内の最終化が見込まれる改正リース会計基準案等を適用するためには、会計処理の変更にとどまらず、リース取引に係る情報収集プロセスを構築することが不可欠となります。

またそのためには業務プロセスの変更やシステム導入、管理会計手法等の見直し等も必要となる可能性が高いです。

改正リース会計基準案等の適用に向けて、不安なことがございましたら、アドス共同会計事務所までぜひ、ご相談ください。

今回は概要の紹介でしたが、次回以降のブログで、改正リース会計基準案等について深堀していきます!